トップに戻る
時評・メルマガ書庫
論説・論文アーカイブス
安全保障早わかり
推奨リンク集
日本を元気にするご意見募集中
研究所の概要

関肇への取材・講演依頼や、このHPについてのお問い合わせは虎ノ門戦略研究所まで
メルマガの登録�・解除
虎ノ門戦略研究所
TEL03-5805-6521
FAX03-5805-6528
2000年11月
公正性の判断だけでよいのか (防衛技術ジャーナル)
 山本七平氏の著述の一つに−「空気」の研究−がある。日本人社会には、ある事柄を正しいとする精神的「空気」が発生するとそれが絶対の権威となり、間違いであることを証明するデータや論理がいかに多くとも、その「空気」には誰も抵抗できない。
 日本人が何故そんな「空気」に弱いのか。考えるに、「隣百姓」という言葉がある。隣の人が種を蒔けば自分も蒔く、そうすれば無難と考えるわけである。今日でも自分の行動の基準を他の人がどう思うかに置く人がいるが、DNAに隣百姓が植え付けられているのであろう。更に他の人がどう思うかを、検証に拠らずして自分勝手な忖度により判断する人さえいる。「空気」が暴威を振るうのを理解できなくも無い。
 今日企業経営においてグローバル化の下に、公正性、透明性、説明責任等が盛んに主張されている。これは、グローバル化の名の下で米国支配を進める手段の一つだという人もいるが、それは別として、政府の行動もこの様な原則を適用すべきとの意見も強い。
 本年1月の報道で、総務庁は1997年度陸上自衛隊調達等の行政監察で、調査した全契約の84%が随意契約であり競争原理が働いていないとして、競争原理による契約拡大を求める等10項目の勧告を行った。これに対し防衛庁長官は、的確な措置をとり、防衛調達の透明性、公正性の向上を図っていきたいと述べた。
 官庁の調達は一般競争入札が基本である。公正性、経済性等から当然であり、防衛庁の調達に競争原理が働いていないとすれば長官の発言の通りである。また、公正性等の原則は、民主主義社会でそれなりに正しく、特に権力のあるところには必要である。
 問題はこのような原則が社会的に主張され始めると、それが「空気」となってしまうところにある。一般競争入札が原則といっても、それが「空気」になり始めて、最近では指名競争や随意契約を認めようとしない傾向が出ているように見える。人間社会は単純ではない。内容的に相対立し矛盾する色々な原則が存在し、その調和をどう図るかによって成り立っている。多様性を尊ぶ民主主義社会では、このことは特に重要と思われる。契約方法だけを念頭に置き、公正性だけを考えるのではかえって害が生ずる。
 先般海上自衛官の秘密漏洩事件があり、上司の処分と対応の為の部隊建設が報道された。まず必要なのは秘密保護法の制定と思うが、これは古典的なスパイの例である。ITでは、ハッカー行為による秘密への侵入が問題とされている。その外ソフトの制作に侵入することも有り得るのである。
 本年3月初旬以来の報道によると、オウム真理教(アレフと改名。本稿では旧称を使用。)の経営するパソコンソフト開発会社が、防衛庁、警察庁を含む多くの官公庁やマスコミ、大手企業等のソフトを作成していたことが警視庁公安部の調べで判明した。約190機関、210システムに及ぶという。オウムは、核燃料、核燃料施設、その輸送ルート等に関する非公開情報を保管していたことが警告されている。オウムの開発会社は、料金が3割ほど安く、仕事は速く、仕上がりも良く、好評だったという。
 防衛庁ではAランクの企業44社を対象に一般競争入札を行い、その中の1社と契約した。その会社がいくつもの下請けを使っており、孫受けの一つがオウムの会社だった。
 防衛庁は今後コンピューターソフト開発事業の受注企業に対して制限を厳しくし、開発担当者等の名簿提出義務を課することで業界との調整に入ったと報道された。しかし名簿が提出されても、公安調査庁の協力が無ければ、誰がオウムに入信しているのか特定できない。しかもオウム企業からの受注を禁止する法律はない。
 オウムの場合果たして治安情報等の収集の為ソフト開発を行ったのか分からない。しかし国際社会では、情報収集を目的として非合法活動さえ行なわれている。何が非合法かは、国内と国際社会では異なるであろうが。
 国際社会では同盟国に対しても情報の収集が行われる。本年初め頃より報道されてきたのにエシェロン(ECHELON)がある。これは、米国、英国、カナダ、オーストリア、ニュージーランドの英語圏五カ国の情報機関が、共同で全世界に張り巡らせている米主導の通信傍受システムである。通信衛星や各国の地上の通信網から、電話、ファックス、Eメールを受信し、スーパー・コンピューターにより暗号も解読し、利害関係のある情報を即時に検索し、把握する世界最強の電子盗聴システムである。冷戦中に作られたが、現在は参加国(英語圏五カ国)の利益のために広く盗聴が行われているという。勿論日本も対象となっていよう。
 今ヨーロッパではこれが大問題となっている。EU諸国の間では、国際会議での各国の動きや企業の契約内容が米国側に漏れたという告発が続出している。EUでは、仏のトムソン社や日本のNECが米国企業に契約を奪われた事例が報告されている。
 これに対し英国のウオールEU担当大使や、ウルジー前CIA長官は、盗聴を肯定する発言をしている。
 橋本内閣時代の日米政府間交渉で、米国の情報機関の活動によりわが国の交渉内容が米国に筒抜けとなっていたとの報道があった。これを道義的に非難しても意味はない。冷戦後米国の情報機関の活動は、経済情報の取得が一つの目的となっており、日本企業も対象となっているという。(宮脇磊介 「騙されやすい日本人」 新潮社)
 情報収集に対しては、契約における業者選定も対策の一つである。
 秘密の保護は、契約における一般競争の原則とは矛盾する。情報の入手が目的で契約を取ろうとするなら、採算性は度外視し、信用され、重宝がられようとするから、安くて立派な提案をするであろう。しかも情報入手が目的であることは秘匿さいる。 
 わが国には秘密保護法はないが、自衛隊では秘区分を明確にし厳しい秘密管理がなされている。しかし秘区分の対象とならなくとも、誰に任せてもよいとは言えない分野、或いは透明性の名の下に全てを公開することが出来ない分野は、防衛庁だけではなく如何なる団体にもある。分かり易い例が研究開発である。国、民間を問わず開発に関わることは、開発が成功し開示されるまでは、情報漏出を憚る性格のものである。開発に関係する人は、その点の信用がなければならない。
 基準を設けてこれと言うことは出来ないが、そのような分野は各方面にある。それだけ人間社会は複雑なのである。例えば宗教の布教の自由は、憲法でも最も大切な原則である。自衛隊においても同じであるが、自衛隊の内部ではそれは個人の問題として守るべき原則であろう。ある極端な宗教団体が、布教を目的として営内の食堂や売店等の隊員と特に接触の多い場所に組織的に入ることは、遠慮してもらう必要があろう。
 これらは、その内容は様々であろうが、安全性の原則とでも言うことが出来よう。
 安全性の原則と公正性の原則は、使われ方が全く反対である。公正性の原則は、排除するには個別に排除の理由が必要である。安全性の原則では、個別に排除の理由を挙げることは困難だ。むしろ選択の理由を挙げることしか出来ない。一般的には、個別になにが危険で排除するかの説明は困難で、受け入れるものの理由しか説明出来ない。特別の意図を持って情報に侵入しようとする者を特定することは難しい。誤ることはあるにせよ、安全である者の説明しか出来ない。これは透明性の原則からすると、排除の理由を明確に出来ないのだから、公正性が「空気」となっていれば説明責任を取れない可能性が多い。
 公正性は必要である。しかしすべてを公正性の原則から考えるの大きな問題である。今日公正性の立場から一般競争入札が強調され過ぎているように見える。全ての企業を安全性の立場から審査することなど事実上出来ない。今日の科学技術の発展は専門分化し、一社ですべてを生産することは出来ない方向にある。通信技術の進歩発達により、企業の外部リンケージは大きく、下請け、アウト・ソーシングは活発となっている。中小企業からなる産業集積地帯の発達が産業のポストモダンとも言われている。下請けがますます広がるとすれば、これを一々自らチェックするのは不可能となる。ISOの発想も同様であろう。この様な状況下で安全性と公正性とをどう調和させるのか。 
 一般競争では安全性に問題がある場合、指名競争入札や随意契約が活用さるべきであろう。そのような場合「空気」に逆らう良識が、特に組織としての良識が必要だ。
 以上安全性から考えてきたが、経済性とも言うべき問題もある。先にオウム企業を排除するため、防衛庁は開発担当者の名簿を提出させることで業界との調整に入ったとの報道を引用した。しかし、考えられる全てをチェックしようとすれば、部外の調査機関を使うことも必要となろうし、法的権限も問題で、また莫大な人員と予算が必要となる。
 官庁に対しては、如何なる量の作業を要求しても構わないとの「空気」が日本の社会にはあるようだ。費用対効果とか収支バランスは、官庁には適用されないらしい。しかし官庁は一定の業務を前提として定員も予算も決められている。予想外の仕事が入れば、一時的なものであろうと、本来の業務は懈怠する。公平性等の原則は重要であるが、そのために本来の業務が懈怠し、或いは定員、予算の増により国民の負担が増えてよいと言えるだろうか。公正性等が判断基準の全てを占めることになっては、国家がおかしくなる。
 リストにもどる 

ウェブサイト利用規定(必ずお読み下さい)
Copyright Toranomon Strategic Think Tank.All Rights Reserved