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2002年5月
不審船引き上げと日本政府の態度 (神社新報 第2647号)
 さる四月三十日、中国政府から「沈没不審船の引き上げに異議を唱えない」との正式通告があったとの報道があった。昨年十二月月二十二日夜の事件以来四ヶ月である。
 他方、北朝鮮は、拉致疑惑をはじめ麻薬・覚せい剤や偽札・宝石・貴金属類の密輸等、わが国に対し重大な主権侵害を行っているとされている。北朝鮮のものとされる不審船はその主役を担っている筈だ。引き上げは、不審船の目的や構造、暗号表、武装の実態等を知る絶好の機会となる。今後の不審船対策にとって、引き上げは不可欠だ。引き上げないと、負傷者まで出した海上保安庁は、何をしたのかということになってしまうからだ。
 更に引き上げは、不審船の跳梁に対する抑止ともなる。わが国が主権を守る為に断固たる措置をとるとの意思表示は、平和の維持のためにも必要である。勝手な跳梁を許すことは、何をしてもかまわないとの誤った印象を相手に与えるのだ。
 沈没した水域は中国の排他的経済水域だが、引き上げ自体は国際法上の正当な権利である。何故なら、排他的経済水域は、漁業や海底資源の開発について排他的権利を有するだけであって、中国の主権は及ばないからだ。にもかかわらず、政府は、今日まで引き上げの公式発表をしなかった。いや出来なかったといってよいであろう。
 それは、わが国のかなりの人々の間に、何を考えるにもまず中国(や韓国)を刺激してはいけないとの脅迫観念があるからである。そのような考えで、これまでの対中国政策が行われてきたからである。しかしこの姿勢は、対中関係を良い方向にもって行っているとは、決していえない。むしろ日本国民の間に反中感情を醸成してきただけだ。
 今年の一月に程永華アジア局副局長が「人の家の玄関先でこんな騒ぎを起こすとは、穏やかな話しではない」と強い不快感を表明したとマスコミで報道があった。わが国はわが国の領海侵犯事犯を追跡しただけである。同氏のこの語法は、本人が国際法の何たるかを知らないためなのか、わが国を蔑視しているためなのか。
 この四月になってから、小泉首相が、訪日した李鵬・全人代常務委員長と「日中双方が満足する解決をということで一致した」との報道があった。その後同首相は、海南島で開かれたボアオ・アジアフォーラムに急遽出席した。このフォーラムは、中国が「国家の威信をかけて成功させたいイベント」であるが、その時までに首脳の出席を中国に伝えてきたのはタイだけであったとのことである。中国の熱望があったにもかかわらず、首相は出席の予定はなかった。ところが、李鵬委員長との会談後、急遽出席を発表した。これは、海南島行きと不審船引き上げとを取引したものと報道された。
 ところが小泉首相と朱熔基首相との同フォーラムでの会談で、引き上げの同意は得られなかった。小泉首相は、「必ず解決できると信じている」との言質を引き出したにとどまり、決着は今後の「冷静かつ慎重な話し合い」に持ち越されたと報道された。この事実に着目しなければならない。
 このことは、日本の首相が軽く扱われた、属国なみに扱われたということではないのか。
 国際的なプライドを失ってしまった日本人には、このことは感じられないかもしれないが、中国はあからさまに日本が属国であるとの態度を示したのである。
 このような姿勢でしかない中国と交渉してきたのは、戦後日本が、外交のあり方を基本的に間違えたからである。例え中国相手でも、交渉は、主権国家たるわが国が対等の立場に立って主張することから始まる。
 その上、このような問題は、日本側が要人を相手に事前に打診しても、された中国側が困るだけなのではなかろうか。相談されればノーと言わざるを得ないだろうからである。中国は、わが国を圧迫することが基本的方針としている。この基本方針に反することは、李鵬委員長、朱熔基首相といえども個人では出来ないであろう。江沢民主席でも同様であろう。中国内部の権力闘争はそれほど熾烈である。
 中国に対し強く出れば中国は引く。しかも中国は、発表することと実行することは異なる。中国には「水に落ちた犬は叩け」という諺がある。日本人とは考え方が全く違うのである。低姿勢で対応すると水に落ちた犬と同様叩かれるだけであろう。
 中国が口で何を言っても、それだけでは何の実害もない。中国が何らかの対抗措置をとれば、わが国も対抗措置をとればよい。わが国は、中国の核ミサイルによる恫喝以外なら今やあらゆる対抗措置は可能ではないか。
 ともあれ、不審船は引き上げられることとなった。当然のこととはいえ一つの危惧は取り除かれた。しかし、中国の態度が変化した背後には、引き上げを強く望む米国の力があったとはいえないであろうか。         
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