■ チベットは中国の内政か 2

 チベットは中国の内政か 2

3 弾圧に反発する自由主義諸国と日本
 聖火リレーは英国、仏国、米国と走り始めた最初から、各国で妨害運動にあっている。妨害は、亡命チベット人だけでなく、その国の人々が中心だ。我が国では中国のチベット弾圧はほとんど問題とされて来なかったようだが、国際的には、中国の侵略以来、大きな問題となっているのだ。それは、侵略による支配だけでなく、宗教弾圧、殺害、拷問、文化の破壊など目に余るものがあるからだ。今回もデモの直後から、多数の死者や検挙者、しかも僧侶や婦人に対するものが、報道され、痛ましい写真も週刊誌等に載っている。
 我が国は、外国の人権問題をどう考えているのか。国内の人権問題にはヒステリックなほど敏感でも、国際的人権問題には、関心を持たない人が多いように思える。北朝鮮の拉致問題では、国際世論に訴えることを主張する人が多い。彼らは、日本人の人権を守ることを他国に頼んでも、他国の人権には知らん顔をしているのだろうか。ダルフールは遠すぎても、北朝鮮の人権問題、中国の少数民族人権問題などアジアにも人権問題は多い。他国の人権に知らん顔は、身勝手過ぎるのではないだろうか。
 日本人は、敗戦後、追われて逃げ場を失った駝鳥が藪に頭を突っ込んでじっとしているように、国外の政治的問題に全く目を背けるようになってしまった。日本の平和主義は、軍事は本来他国との相対的関係なのにそれを無視し、自国の軍備とその行使についての制限だけに躍起となっている。外国の人権に無関心なのは、その心理と共通するのではないか。これは、戦後の日本だけの敗戦心理の特徴であって、これを克服しないと、日本は世界で自立できず、衰退するだけなのではないか。
 更に中国に対しては特別な遠慮がある。歴史を見るという見地からは異様だ。特に、チベットの宗教弾圧は仏教の弾圧だ。少なくとも仏教の関係者は、関心を持ってもよいのではないか。
 チベット暴動のすぐあと、インド訪問中のペロシ米下院議長は、「チベット問題は世界の良心への挑戦」と語り、チベットに対する中国政府の対応を厳しく批判した。そしてダライ・ラマ十四世と会談し、ダライ・ラマの求める「国際調査団のチベット派遣」と「直接対話の再開」に支持を表明した。国際調査は、中国政府が、ダライ・ラマがチベット暴動を扇動したと主張しているから、その検証のためだ。
 中国は、チベットは国内問題とし、国連高等人権弁務官のラサ訪問さえ拒否した。国内問題でも弾圧が無ければ、国連高等人権弁務官の入国を認めてもよいではないか。
 もともと、ダライ・ラマはオリンピックに反対もしていない。聖火リレー妨害に反対だし、中国内の抗議行動も自制するよう声明を出している。チベットの独立を求めているのではなく、外交、軍事は中国の主権を認め、自治を要求しているだけだ。
三月末、英王室の報道担当者は、英国のチャールズ皇太子が五月に訪英するダライ・ラマと会談する意向であることを明らかにした。会談の理由は、「皇太子は、ダライ・ラマ十四世を宗教上の指導者として敬愛されているからだ」という。英国王室は、「君臨すれども統治せず」だが、わが皇室と異なり、政治的なことも発言される。皇太子は、既に三回ダライ・ラマと会談されたという。また、報道担当者は、皇太子は北京五輪開会式に招待されても出席されないと述べた。英皇太子は、チベット問題に関心を持たれ、ラサの刑務所で拷問を受けたというチベット尼僧二人をロンドンの邸宅に招待されたことがあるという。
 それにしても、英国王(女王)は、英国国教(キリスト教)の擁護者である。英国皇太子は、王位に着かれれば英国教の擁護者となる。英国教の信仰擁護者が、チベット仏教の活仏を宗教上の指導者として敬愛していると発言するなど、かつては考えられなかったことだろう。ノーベル平和賞受賞者ダライ・ラマの人格の偉大さを証明するものでもある。
 自由主義諸国の首脳は、いずれも、今起きている騒乱弾圧に対する懸念を中国政府に表明し、オリンピック開会式は欠席するなどとしている。西側諸国は、現在の中国との経済関係が無視できないほど大きくなり、中国が独裁国であるだけに、その関係に苦慮している。しかし人権問題は軽視して、中国に迎合してはいない。それは、国民の人権擁護の意識が高いからだ。
 米国は、中国が米債券の最大保有者であるなど、経済関係が深くなっている。北朝鮮との関係では中国の協力を得たい。米国は、イラク、アフガンで軍事的には手一杯で、北朝鮮に強い態度を取れない。これ以上の火種は抱えられず、ブッシュ大統領は強い批判は抑えている。それでもダライ・ラマとの直接対話や、デモに対する強圧の中止を求めている。
 3月29日、福田首相は、チベット自治区での弾圧について「声高な批判が今の段階で適当かどうかよく考えなければならない」と述べたという。3月16日には、中国政府の弾圧でチベット人の死者30人、21日には死者70人と報道されており、首相も知っている筈だ(4月7日の報道では、死者150人以上)。日本だけが中国に同調する態度を取り、胡錦涛から感謝の意が表されたほどだ。
 性格もあるにしても、日本の総理大臣の態度があれでよいのだろうか。                             (

                                                                        つづく
虎ノ門戦略研究所 理事長 関 肇