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■■■日本は北朝鮮に妥協するな■■■
平成19年9月10日

 9月5日、6日の両日、モンゴルのウランバートルで開かれた6カ国協議の日朝国交正常化作業部会は、拉致問題について北から何の歩み寄りも得られないまま終了した。今回の作業部会にあたっては、安部首相は「日朝の不幸な過去を清算していく」と述べ、これまでの強硬姿勢から転じて融和姿勢を見せていた。第一日は過去の清算が先行協議され、日本側は北に歩み寄る姿勢を示したという。そして第二日は拉致問題で日本は北の態度の変化を望んだが、結果は、北の代表が「これまでと同じく、全ては解決したとのわれわれの立場を表明した」と述べただけだった。

 日本が融和姿勢に転換したのは、米朝の国交正常化に関する協議が進んでいるように見えるからだ。米国の金融制裁は北に決定的ともいえる打撃を与えたが、米国は北との早期交渉解決を望み、金融制裁は中国を通ずることとして放棄した。
 イラクの安定政権樹立は先が見えず、アフガンではいったん制圧したタリバンが支配地域を確立し、アル・カイーダも勢力を拡張している。ブッシュ政権は任期終了までに、北朝鮮の核放棄だけは成功させたいのだろう。その狙いは、米国まで到達する核ミサイルを保有させないことと核とミサイルの技術拡散防止だ。またイランも核保有が問題となっている。日本にとってはイランより北の核保有の方が問題だが、米国はグローバルに見てイランの方が危険と考えている。イランを抑えるには、北と妥協を図っても仕方がないとしているのだろう。
 北は米国のテロ支援国家指定とそれによる経済制裁の解除をねらっている。そして北は年内にテロ支援国家指定の解除に米国と合意したと時々公表してきた。米国は否定するが日本国民は疑心を抱くようになっている。米国の「裏切り」とのマスコミの見出しさえ出るようになった。米国は北との二国間協議は行わない、六カ国協議の枠内だと言いながら、実質二国間協議でことは進んでいる。ブッシュは拉致問題を忘れないと言っているが、米国の好意に頼るだけでは日本政府は国民に対する国家の義務を果たしていないことになる。国民を守ることは国家の義務の重要な一つで、その義務を果たさない国家は国民に納税その他の義務を課することはできないのではないか。
 核の脅威は米国より日本の方が深刻で、北には現在米国に到達するミサイルは無いが、日本に到達するミサイルは実戦配備されているといわれる。ただ、核弾頭がミサイルに搭載可能なように軽量小型化されていないだろうというだけだ。
 北の核保有と核拡散は各国共に問題だが、日本には日本だけの拉致問題がある。六カ国協議の中国、ロシアは人権無視の国だし、ノムヒョンの韓国は北との融和が第一で、更に自国の拉致被害者は日本より数が多いのに問題としているようには見えない。六カ国協議の場で各国に拉致問題に対する支持を期待するのは無理なのだ。米国だけが拉致問題に対して理解を示し、日本の主張を支持している。しかしこれは、小泉ブッシュの友情関係から始まったところが大きいといわれている。
 そもそも西欧民主主義の国でも、自国民の人権は他国に対して保護するが、他国民の人権被害に同情は示しても積極的に動くことを期待するのは無理だ。それが世界の現状だ。日本の識者の中に国際世論に訴えることを主張する人がいるが、口先の同情は得られても、日本自体が何もできないことを内心冷笑されるだけだろう。そのような人は、現憲法にどっぷり浸った人だ。憲法前文は、「・・・日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理念を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。・・・」としているが、世界の実態はどうだろう。平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼する結果が拉致問題を起こし、日本国民を断固武力によってでも保護しようという姿勢がとれない国を作ってきたのではないか。

 米国は人権に敏感な国だが、プロテスタント的教条と勝手な世界理解に基づく多分にご都合主義的なところもある。また国民の間に大きな広がりがないと政治家がそれで動くこともない。まして国家の指導者は国家の利益を優先するし、それに選挙事情が加わるので、例えばヒラリー・クリントンあたりが大統領になれば、日本の拉致問題をどれだけ支持してくれるかは分らない。
 日本の民主党小沢党首の言う「アフガンは米国が独自に始めた戦争で、国連決議には基づかない」との認識は間違いだが、いずれにせよ、インド洋での給油支援を日本が停止すれば米国の拉致問題支援の熱も冷めるかもしれない。「日本独自の問題だから日本と北の二国間でやって下さい」と言われたらどうしようもない。
 日本は独力で頑張ることを基本とし、その上で他国の支援を頼むより外はないのだ。北の欲しいのは金だ。小泉訪朝に北が同意したのは金が出るだろうと思ったからだ。ところが彼らの期待から外れて拉致問題が大きな問題となってしまった。当時日本外務省の局長で「十数人の行方不明者など日朝国交回復からすると問題ではない」と宣うたのが一人ならずいたと記憶するが、金正日と同じ感覚なのだろう。しかし正常な国民感情は、世界のどの国でもそんなものではない。

 現在日本は経済制裁や朝鮮総連の違法行為を取り締まるなどによって、北に強い圧力を加えており、効果を挙げている。日本の経済制裁は他の国が制裁を行わないなら意味がないとの主張する者もある。それは北を利するに過ぎない主張で、日本の制裁はたとえ他の国が制裁を解除してもそれなりの効果を上げるのだ。更に重要なのは、日本の経済協力がなければ、韓国等の援助だけで金政権の望む援助には達しない。
 しかし拉致問題の困難なところは、誰が責任者だったかということだ。責任者を明確にし、処罰を明確にしなければ日本にとっての解決にならない。日本の国家としての立場がない。拉致の実行者を引き渡せという日本の主張も正当なものだが、金正日に忠実だった者を引き渡せということで北にとっては困難な問題だ。しかし責任者を明らかにし、処罰せよというのは、責任者は金正日なのだからこれは無理だ。金正日がスケープ・ゴートを作ろうとしてもそれは金正日には無理だろう。ここが解決を難しくしている決定的な問題と思う。
 金正日体制が崩壊すればそれは容易だ。日本はそれが望むところだろう。しかし、中国、韓国はそれを望まない。北の崩壊は膨大な難民が特に中国に向かうだろうからだ。韓国にしても自力で北の立て直しをする能力はない。米国はイラクが容易に片付くと思っている間は北を攻撃することも考えていたかもしれない。それは今では無理だろうし、北崩壊に反対する中国に理解を示しているのではないか。
 拉致問題は手詰まりとならざるを得ない性格のものだ。他方、北の核放棄も日本にとって重要な問題だ。日本としては被害者全員とその家族の早期帰国が同意されれば、責任者の解明、処罰と実行者の引き渡しは交渉を継続することで妥協し、日本が与え得る援助の半額とか三分の一とかを明らかにした上で、経済援助を行うことで手を打つことになるのかもしれない。

 問題は国内の妥協的意見が強まることだ。日本が強硬な態度を示せば北を少しでも歩み寄らせることができるのが、そうでなければ北は賠償など強力に主張するだけだ。
 こう考えると第一に与党内部が心配だ。安倍政権が頑張っている時にノコノコ北に出かけた派閥の長がいる。こんなことをするから、与党にも北に融和的な勢力があり、日本の意思を分断できる、と北に思わせるのだ。参院選の敗北で安倍政権が弱体化したが、これも北を利するおそれがある。
 また六カ国協議の場が北に融和的になると、バスに乗り遅れるなとばかり日本の妥協を主張する人も出よう。戦前の日、独、伊三国同盟も今となっては大変評判が悪いが、あの時はドイツのヨーロッパ戦線での快進撃を前に、朝日新聞等が、バスに乗り遅れるなと煽ったのだ。日本人の集団主義の弱みをつく意見には注意が必要だ。                                                                                    (以上)
虎ノ門戦略研究所理事長   関 肇

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