

■虎ノ門戦略研究所
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■■■小池防衛相の暴走と官僚の見識(1)■■■
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平成19年8月18日
守屋防衛次官の人事が小池防衛大臣と次官の対立としてマスコミを賑わしている。マスコミはこのような対立があると殊更大きく取り上げて煽るのが仕事だから、面白可笑しく書き立てるのはやむを得ない。これを大臣と次官の単なる確執のように受け取ると真実を見誤る。OBとして一筆書いておきたい。
これは守屋次官が自身の退任と後任が西川官房長とされていることを新聞で初めて知ったことに端を発する。必要な人事手続きも踏まれていなかったし、関連して行われる局長以下の人事も次官は知らなかった。人事異動案の作成は次官の権限である。それを次官に相談せずに西川官房長が作成して大臣に上げたのが事実とすれば、下克上もいいところだ。クーデターと言ってもよいだろう。マスコミによると、小池大臣は訪米直前に人事案を総理に耳打ちしマスコミにリークし、帰国後それを閣議に掛けようとして、説明を受けてない塩崎官房長官に拒否されたという。
守屋次官は新聞を読み大臣に真偽を訊ねたという。「その通りよ。昨晩電話したけど、出なかったじゃない。残念だったわね」と宣たまうたという。真夜中の携帯電話だったというが、次官退職と後任人事がこんなことで済まされるのか。面談して後任についても相談すべきではないか。そうすれば事態は違っていたかもしれない。次官人事が恣意で思いつきのように行われて官庁は成り立つのか。要職にある人が突然首を切られることはあるかもしれない。しかし一般的に人事を考えると、私的な使用人でもこんなことが許されるない。小池大臣には、人権意識が基本的にあるのだろうか。人間の情があるのだろうか。
守屋次官は任期が4年を越えるが、今年になって定年が延長されていた。これ自体異例のことであり、マスコミではしばしば剛腕と話題になり悪口も言われていたのでよけい話が面白く取り上げられるのだろう。しかし4年を越えたのは、大きな課題をかかえた防衛庁(防衛省)をリードする必要から、他に余人がないとする官邸と時の長官(今は大臣)の強い意向によるものだろう。本人が望んだものでもないし、本人が望んでも異例な人事が行われる筈もない。
省内人事は大臣の権限だが局長級以上の人事は閣議了解事項だ。橋本内閣から正副官房長官による閣議人事検討会議により事前に審査されることになっている。小池大臣はこの手続きを踏まずに閣議に上げようとしたので塩崎官房長官から拒否されたのだ。小池大臣が塩崎官房長官を「塩崎さんは昔からそうなのよ。私のやることにすべて反対する」と言ったというが、そんなことではない。
大臣と次官の対立があれば大臣が次官を更迭することはあり得ることだ。人事権は大臣の最も重要な権限だ。しかし対立による更迭は基本的な政策に基づくものであっても、大臣の恣意による更迭は許されるべきではない。この場合大臣と次官の間に政策上の対立があったとは伝えられていない。特に小池氏は就任一か月ばかりで何も知らない人だ。国防についてまた自衛隊について、どれだけの理解があるのか。勉強すべき時なのに外国出張をしてパフォーマンスを楽しんでばかりのように見える。次官は辞めるべき時期に来ているとしても、しばらくの留任を求めるのが自然だろう。
次官は官僚のトップだから大臣が次官を辞めさせたいと思ったらまず次官本人に話すのが本来の姿だ。次官が同意しなかったら強行もあろうが、話もせずに退職を閣議に図るというのは小池氏の人格を疑う所以である。組織にはルールがある。ルールには良いものも改善すべきものもあろう。しかしルールがなくて組織は成り立たない。個人の店とは違うのだ。そんなことが分からなくて大臣が務まるのか。
守屋次官は米海兵隊普天間飛行場移設について滑走路案を変更したので、沖縄の建設業者から不満を持たれているという。普天間移設については、県も普天間も不満があるようだ。次官を退職させれば普天間移設を認めさせると小池大臣にいう人がいて次官を退職させようとしたのだ、とマスコミは言っている。そのような密約が信用できるのか。沖縄は難しいところだ。パフォーマンスが好きな人の乗りそうな話だが、不用意ではないか。
西川官房長は警察出身だ。そのため防衛省には警察庁の権限強化への警戒感があるとの解説記事もある。そんなことはあるまい。官房長は重要なポストだ。西川氏が官房長になるについては、守屋次官の推薦があったからだろう。次官はこれまでそれなりに西川氏を評価していた筈だ。しかし西川官房長はあまりにお粗末だ。大臣から話があった時に人事のルールについて説明して、次官に相談すべきと何故大臣に進言しなかったのか。局長クラス以上の閣議了解人事案の
作成は次官の権限である。大臣から後任について打診されたとしても現職次官を無視して決定できるものではない。また、官邸の正副官房長官の閣議人事検討会議も経なければならない。従って官房長官の事前了解を取り、総理に上げてもらうのがルールである。閣議了解人事は各省大臣の恣意でできるものではない。総理に事前に耳打ちしただけで済まされるような軽いものではない。西川官房長が次期次官という餌に釣られて大臣の意を汲んだとすれば言語同断だ。
防衛省官房長としては失格ではないか。西川官房長の今回の行動を知り、守屋次官は西川氏が次官として不適切と考えたと思う。どんな官庁でも、警察庁でも、西川氏のような人が次官となることは疑問とするだろう。防衛省と警察庁との対立という見方は、面白いだろうが間違っている。
一方、次官が首相と話したことを問題とする記事もある。曰く「・・人事権は閣僚にある。手続き面で多少の齟齬があったとしても、次官が閣僚に公然と反旗を翻すことは官僚の法を越えている」とか、「・・守屋氏は自分の後任に警察庁出身の西川徹矢官房長を起用する点に反発。・・こうした縦割り行政の弊害を打破するために、安倍政権は国家公務員の一括採用の検討も含めた公務員改革を加速させているのではなかったのか。・・・・一役人の暴走を許せば、首になりたくない官僚が出るたびに、今後もこうした騒動を許すことになる・・」といったものだ。これらの意見は引用を短くしたが、支離滅裂だし間違っている。
かつてバブルの時代だったか、日本の公務員が絶賛された時代もあったが、現在は公務員叩きが全盛だ。公務員制度に縦割りなど問題があるのは私も同感だが、かといって官庁、公務員制度は必要ないというのか。上記記事の記者も必要ないとは言うまい。必要なら官庁には官庁のルールがあって成り立っていることを知るべきだ。官庁でなくとも組織は全てそうだ。閣僚といってもルールを破る人は、官庁制度を破壊する者だ。制度の破壊者に対しては、公務員として
誇りを持って仕事をしている者なら抵抗すべきだ。守屋次官にしても、小池大臣に従っている方が楽に違いない。小池大臣の非を主張することは官僚として勇気のある行為だ。堂々とした行為と思う。首相と話したのは、これ以外に手段がないし、正当な行為といえる。
官房長は防衛省のマスコミ対策の責任者でもある。首脳人事のような機密事項をリークしたり、世論操作をしたりした者の責任を追及するのが本来の官房長の責務ではないのか。官僚叩きや人事に嘴を挟むことで点数を稼ごうとする政治屋や、自らの票稼ぎのパフォーマンスしか考えない代議士の横行する昨今だが、そういう人達に対抗して国家戦略を考えるのが防衛官僚の使命の筈だ。大臣のご機嫌とりに汲々とするような、品格のない人物を次官にするなど絶対に許されるべきではない。防衛省官僚としてはお粗末なパフォーマンス大臣が来た時ほど、国益には何が大切か腹を据えて考え実行する人でなければ要職にいることは許されない。
たしかに守屋次官の次官四年は異例だ。次官は通常二年で交代する。四年も在職しているというだけで反感を持つ人もいる。彼の先輩の元次官でも非難する人もいるくらいだ。本人は在職三年ぐらいから「居たくているのではないですよ」、「何時でも辞めます」と言っていた。
例えば米軍の再配置でも、米軍の要求に応ずるだけではなく、海兵隊の再配置など日本の要求も通した。これは日米軍事関係で初めてだろう。先の普天間の滑走路でも必ずしも米軍の要求通りには認めていない。また当初の案でもない。この移転は日本の総理の要望で米大統領が賛成したものだ。海兵隊が同意したのではない。日本政府は移転先を決めることをせず10年も放置したのだ。米国政府は米軍の再編問題もあり、沖縄の普天間飛行場移転をこれ以上先送りするのは我慢できない状況にある。次官が決断したのは地元と米軍の両者の同意できる点を見極めて早期に基地を建設する案だ。地元建設業者としては金額が減少することから不満だという。このような積極的活動が小泉前首相の意にかない米国に同行するという異例の厚遇になったのだろう。無難に職をこなした人たちはいても、過去防衛庁にこういう積極的な仕事をした次官はいなかった。
また防衛庁の省昇格も次官の積極的根回しが実ったのだ。公明党は基本的には賛成でないし、民主党も同様だった。これには国民新党が賛成したことが役立ったといわれる。官庁では外務省は反対だったし、マスコミでは朝日新聞などが反対だった。多くの次官は難しい問題は部下に任せ、後ろから指揮するのが通常だがこれらの問題に守屋次官は陣頭指揮を執った。他の人にできたこととは思えない。
米国はイージス艦の秘密漏洩で守屋次官が責任を取ることを望んでいるとの記事もあった。これは考えられない。自衛官の隊員に対する指揮命令は長官が幕僚長を通じて行うこととなっている。上司の責任を問うなら幕僚長だろう。しかし問題の本質は上司の指揮監督にあるのではない。国家として秘密保護法がないことが秘密の保護観念を希薄にしているのだ。
小池大臣のルール無視の恣意的人事を認めることは官庁人事を破壊する。守屋次官の反対は本人の進退というより、その点に関する心配からだろう。この秋には普天間の問題や、民主党勝利によって懸念が広まったインド洋派遣延長問題などが早速大きな問題となる。マスコミは守屋次官はこれ等の問題に対してやる気満々、と書いている。適当な後任が居れば、彼は退職にやぶさかではないと私は思う。職に恋々とはしていない。しかし普天間の問題については政治の
主導下で官僚としては彼が剛腕を発揮する以外にはないと思う。大臣に言われてルール無視をするような西川氏には沖縄問題に対応はできない。正論とそれを通す力が必要だ。いくら悪口を言われても守屋次官は任務を全うすべきなのだ。
(以上)
虎ノ門戦略研究所理事長 関 肇
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