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■■■イージス艦秘密情報の流出と日本の秘密保護■■■
平成19年6月24日

 イージス艦に関する秘密情報が中国スパイに持ち去られ、警察と海上自衛隊警務隊が捜査している。現在捜査中なので細部の発表はないが、札付きの中国女スパイが海上自衛隊の機関科(エンジン等に関する職種)の下士官の妻となっていて、彼が持っていたイージス艦の情報を中国に持ち帰ったということらしい。警察が捜査しているということは、それが法律違反になるからだ。この問題は誰でも法律違反となると思うだろうが、秘密保護に関する法律のあり方が日本の場合独立国家としておかしいのだ。それをこの際指摘したい。

 秘密保護問題の前に、この問題の特別な状況について二つ述べたい。まず、家庭より仕事に時間をとられる男性は、日本では結婚が難しい。PKOで海外勤務をする場合などは特別としても、海上自衛官の艦艇勤務者は訓練で1〜2週間家を留守にすることが多く、そのため日本人の結婚相手を見つけるのが難しい。そのため外国人の妻が多いという。結婚していても中国人女性に籠絡された日本人政治家トップがいるぐらいだから、スパイが意図して下士官の妻になるくらいは楽な話だろう。
 これは洋の東西を問わず昔からあるスパイ戦の一つのケースであり、一般論として外国人妻を否定、非難することには繋がらない。ほとんどの外国人妻は立派に家庭を守る妻であり、すこやかな二世を育てている。外国人と結婚することは今日の世界では普通の話だ。これは、情報を妻に渡した本人の秘密保護に関する意識の問題で、日本の秘密保護体制のあり方の問題なのだ。
 次に、この下士官はイージス艦の乗組員ではない。それが何故イージス艦に関するデータを持っていたのか。多分CDなどに入ったものだろうが、限定されているべき情報がコンピューター情報としてかなり広がっていたのではないか。イージス艦は長距離レーダーで索敵し、攻撃してくる複数の敵航空機又はミサイル(対応するシステムは両者で異なる)をミサイルで迎撃する複雑なシステムだ。このシステムを動かすには、艦のあらゆる分野において、それぞれ複雑な知識が要求される。そのため海上自衛隊では、術科学校でそれぞれ教育が行なわれる。マスコミによると、第一術科学校で教育に使われた資料の漏出が発端らしい。それがこの下士官の手に何故渡ったのか。下士官がもともとスパイとして働いていたのなら、妻であった中国スパイが逃げるときに一緒に逃げると思われるが、ここら辺は捜査の結果を見なければ分らない。

 問題なのは、このようなデータが広く個人のパソコンに入っているということだ。先般も自衛隊の個人のパソコンに入っていた情報がウイニーを通じて流出した。最近は警察で警察情報がウイニーを通じて広く流出した。
 自衛隊の場合、秘蜜文書は秘、極秘、機密などの種別により赤表紙をつけられ、金庫に入れ厳重に保管されている。組織の長は保管状況に責任があり、そのチェックも規定により厳格に行なわれている。ところがパソコンの場合秘密の管理がいい加減だ。一つは、パソコンの利用はすこぶる便利で皆それを使うが、職務上使用できる官のパソコンは数が限られている。そこで私物のパソコンが職務上使われてきた。パソコンにデータが入っていれば自宅で作業を続けることは容易である。膨大な書類を持ち運ぶ必用もない。自衛隊では事件後個人パソコンを使うことを禁じ、各人に渡るように業務用パソコンの購入を図り、自宅での作業を禁じた筈だ。予算が極めて窮屈な今日相当な英断だったと思う。
 情報を多く持ちたいという気持ちは誰にでもある。パソコンには大量の情報が簡単に入る。先の警察情報流出も昇任試験に必要なデータばかりでなく、必要としない多くの警察情報も入れていたらしい。自衛隊のウイニーによる情報流出も同じだったのではないか。パソコン人種は自分が直接必要としないデータでも何でも自分のパソコンに入れておくという風潮が広くあるようだ。これは、形式的に秘文書として扱われている場合は別として秘密保護の意識が形骸化していることを示している。それは日本に秘密保護法に関する基本法がないことに原因があるのではなかろうか。

 そこで初めの問題に帰るが、イージス艦に関する秘密情報は「日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法」で保護されている。簡単に言うと、アメリカ合衆国から供与された装備品や資材について構造、性能、技術、使用法、品目、数量等に関することを秘密として保護する法律で、昭和29年に制定された。要するに米国から伝えられた装備品については法律で保護し、これを犯した者は十年以下の懲役が科せられる。これらの秘密は現在「特定防衛秘密」と呼ばれている。ところが平成14年になるまで国産の装備品については法律上の保護がなかった。以前は自衛隊法上秘密を守る義務等の違反は隊員に対して一年以下の懲役又は三万円以下の罰金で、国家公務員法上の秘密保護に平仄を合わせた規定があるだけだった。だから国産の装備品について国民に対しては法律上の保護が無く、製造企業に対しては契約で秘密保護を課しているだけだった。大分前だが、国産戦車の製造に関する技術情報が中国に流れているとの話が週刊誌に載ったことがある。仮にこれが事実だったとすれば、防衛庁は契約違反で企業を責めることができるが、責めてどうなるのか。違反でその企業との契約を破棄することは契約上可能だが、実質的には不可能だ。高度な装備品は、通常一社でしか生産していない。契約を破棄するとその装備品が納入されなくなるのだ。米国の装備品の秘密は法律上保護され、国産の装備品は保護されない。これは植民地の状況ではないか。それをおかしいと感じない日本人の心はどうなっているのか。
 平成14年にようやく自衛隊法が改正、施行され、自衛隊法に122条「防衛秘密を取り扱うことを業務とする者がその業務により知得した防衛秘密を漏らしたときは、五年以下の懲役に処する。・・・」が付け加えられた。これで刑の軽重は別として、国産の装備品に関する秘密も保護の対象となった。
 しかし問題の本質は変わらない。政府の各機関には色々な秘密がある。しかしこれに対する秘密保護法がないのだ。こんな国が世界にあるだろうか。最近情報の一元化として各省の高官が情報を持ち寄り検討するようになった。ここに持ち寄られる高度な情報についても米国の「特定防衛秘密」、自衛隊の「防衛秘密」以外は、法律上秘密の保護はない。政府高官は信用されてしかるべきだが、秘密の漏洩については死刑を含むまでの罰則があるべきではないか。そうなれば政府高官も秘密の取り扱いについての緊張感が違ってくるだろう。自衛官、警察官のパソコン上の秘密の管理についても認識が違ってくるのではなかろうか。秘密を守ることは教育だけでは不十分だ。その漏洩には厳しい罰則が伴わなければならない。日本の秘密を探っているのは中国や北朝鮮、ロシアだけではない。同盟国も狙っている。それが国際関係だ。また、企業にも国として守るべき秘密はあろう。

 スパイや秘密の漏洩が問題となっても秘密保護法が必要との声が出てこない。マスコミはそれを取り上げることをしない。マスコミはセンセイショナルな記事を書くことだけに熱心で、それを妨げることは報道の自由を阻害するといって反対するだけなのか。その背後には安全を他人任せで安心している異常な心理がある。そこには独立心の欠如が根底ある。「戦後は終わった」というのは、確か昭和30年経済白書だったと思うが、まだ戦後は終わっていない。経済だけで終わったとするのは終わっていない証拠だ。
 日本は米国に安全を依存している。それを考えることをせず経済の対米隷属とか、イラク派遣の対米従属とかいう人が多い。対米隷属には私も反対だ。しかし隷属を言いながら、安全について少しでも自ら独立を考えないのは全くの無責任で、言うことが背反している。安全保障は一国だけでは困難だが、少しでも独立のフリーハンドを持つのは安全保障の性質上当然ではないか。それを阻害している原因は国内の法体制にあり、それは日本人の心の在り方から来ているのだ。
(以上)

虎ノ門戦略研究所理事長   関 肇

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