

■虎ノ門戦略研究所
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■■■防衛庁の省昇格と取り組むべきこと■■■
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平成18年12月18日
防衛庁の省昇格がようやく実現した。省昇格は池田勇人内閣以来の防衛庁の悲願だった。喜ばしいことだ。しかし、多くの人から省昇格とはどういうことなのか分からないと聞かれる。昇格によって防衛庁の組織や任務が変わるわけではない。予算も変わらない。平和維持活動などの海外任務が付随的な業務から本来業務に変わるといっても、任務の実態が変化するわけでもない。庁と省の違いという行政組織法上の問題が分からないということもあろう。一方、悲願だったと言いつつ、その言葉に水をかけるようだが、隊友会や一部元将官だった人達が鐘を叩いているのにくらべて、一般隊員やその退職者達は案外冷めているようにも見える。
そこでまず省昇格を官庁組織をあまりご存知ない方に分かるように説明してみたい。 行政府は内閣があってその下に各省がある。各省というとまず本省の局が頭に浮かぶ。例えば農水省の本省には、大臣官房、総合食料局、消費・安全局、生産局、経営局、農村振興局等がある。これ等の局は内局と呼ばれる。この外本省には林野庁、水産庁があり、これらの庁は外局と呼ばれる。外局にはこの外、委員会がある。
庁とは行政組織上どういうものか。庁は(外局は)、局と同程度の業務を受け持ちながら、その業務が特殊性、専門性を持つために独立した機関として設置されるもので、府や省に対して独立性を有している。庁には、宮内庁、警察庁、検察庁のように外局ではなく特別の機関とされる庁もあるが、防衛庁は内閣府の外局(内閣府の前身が総理府であった時は、総理府の外局)である。ちなみに内閣府の局には賞勲局、男女平等参画局などがある。庁の長は局長より格が上であり通常官僚だが、大臣である庁もある。防衛庁は大臣庁だ。通常外局である庁の内部組織は局ではなく部で構成される。例えば、林野庁の林政部、森林整備部、国有林部である。防衛庁は外局だが、本庁の組織は、防衛局、運用局、人事教育局等の局からなる内局と呼ばれる文官の組織と、陸、海、空幕僚監部及び統合幕僚監部からなる自衛官の組織で構成されていて複雑である。またこの度解体される防衛施設庁は内閣府の外局である防衛庁の外局である。
仕事のやり方が省と庁ではどう変わるのか。行政府で重要な問題は内閣による閣議に諮られる。省は閣議に諮る必用のある案件は独自に閣議に諮ることができる。庁は各省の外局であるから、本省を経由しなければ閣議に諮ることはできない。また、予算要求を財務省にする場合も本省を経由しなければならない。私の経験では、当時防衛庁は総理府の外局で総理府を経由したが、説明と了解を得ることに手間は取らなかった。総理府としては防衛庁の仕事の内容には実質的に関与はしておらず、形式的手続きの問題だったからだ。今でもそうだろう。
今回防衛庁は省昇格に熱心だったが、私が現職の頃、事務方は昇格を望んではいたが、そのために動いてはいなかったように記憶する。それはこの問題が全くの政治問題だったからだ。社会党は絶対反対だったし、自民党はそれを押して推進するだけの熱意はなかった。実務上はあまり困らなかったから、政治問題に熱を上げても、官庁としてはどうしようもないとの気持ちだったように思う。
今回政治問題は解決したのか。反対は少なくなり環境も変わったが、今回実現するのは、米軍再編などで防衛庁が働いたことを小泉前総理が評価したからではなかろうか。米軍再編では厚木からの米軍機の移転のように、米国は必要としていないが日本として望ましい案件を防衛庁が初めて主張し、それを通した。沖縄の普天間基地の移転についても大きな働きをした。
それでは、実務上変化がないからといって、この問題は大したことではないのだろうか。そうではない。庁は省の局と同等の業務という行政組織のあり方からすると、内閣府或いは他の如何なる省であろうと、防衛の業務をそのなかの局の業務と同等と位置付けるのはもともと無理がある。そもそも防衛業務は有事の為のものであって、他の省庁による平時の為の業務とは異質である。それは自衛のための戦闘行動一つを考えても分かるだろう。防衛の業務をある省の局の業務と同等と位置づけるのは、防行政組織論としてはおかしいのだ。実態的に防衛庁の内局の組織が省のもののようになっているのはそのためだろう。
この問題は国家が防衛を如何に考えているかの基本姿勢を示すものだ。わが国が防衛に正面から取り組みたくないという気持ちの現われだった。外国では自衛隊を軍隊と同等と見ているのだから国内問題だけなのだ。私には一国平和主義の発想がこれまで為政者の頭脳も蝕んできたことの現われのように思える。省に昇格したことは国の基本姿勢の変化だ。業務の実態に差しあたり大した変わりがなくとも、基本姿勢の変化は大切だ。日本人は建前と本音の使い分けが上手という。本音の部分ができれば建前はどうでもよいという感覚だ。しかし国の組織などにおいて建前のあり方は基本的に重要だ。自衛隊発足の時、日本経済が弱体だから当面軽武装で行くという考えは正しかったと思う。しかし、軽武装でも軍隊とすべきだったのを自衛隊としたのは大きな間違いで、防衛組織としての自衛隊に色々な歪みをもたらしている。省昇格がそれらの歪みを直すための第一歩となることを期待したい。
ところで、省昇格ということだけで喜んでいてよいのか、特に省昇格に熱心なOB達に問いたい。防衛問題は集団的自衛権の問題を初め色々な政治的問題を抱えている。それは憲法解釈に繋がっていて、政治問題として官庁が解決を図ろうとすることは困難な問題だ。しかし、その外にも防衛省として現行法の所管の問題、解決を図ることのできる問題で、重要な問題が多くある。ただ何かの切っ掛けなしで取りかかるのは難しいので、省昇格という一つの結節でこれら問題に取り組むべきだ。
官庁の仕事は国の仕事だから、必要な仕事で自ら行う能力のあることは、自ら権限を持つのが当然だ。それどころか防衛庁しか能力のない問題が他省の権限となっていて、現場の隊員が大変な苦労を強いられていることがある。
例えば、ペルシア湾の機雷処理である。派遣された海上自衛隊の掃海部隊は現場に到達したら機雷処理は自隊独自で行うのではなく、各国と歩調を合わせて行うこととなった。そのため当初予定した処分用機雷を使うのではなく爆薬や導火線を使うこととなった。爆薬や導火線は少量しか持って行かなかったので、調達する必要がある。しかし、日本からの取り寄せは武器輸出となり通産大臣(当時)の許可が必要だ。許可を取るには時間がかかりすぎて間に合わないので米軍に頼んでみたところ、鷹揚な米軍はたくさん有るから幾らでも持って行ってくれということになり(たくさん有っても日本ではこうは行かない)、米軍に分けてもらって任務を達成したという。
また、ルワンダの難民救援の例もある。自衛隊の医療部隊が派遣されたが、行くまでは一次医療(風邪、腹痛等)を予定していた。行ってみると一次医療はすでにNGOが担当しており、ニーズは満たされていた。自衛隊に期待されたのは外科、検査等の高度な二次医療だった。そのため高度な医療機材や薬剤が必要となった。ところが高度な薬剤の輸出は厚生省が許可してくれない。そこで、なんとか近隣諸国で購入して必要を満たしたという。こんなことがあってよいのだろうか。自衛隊がその任務遂行上必要なものの調達は、他省庁の認可は適用除外とすべきだ。
それでもなお、事前に調査しておけば問題は生じなかったと言う人がいるかもしれない。それは現場を知らない殿上人だ。自衛隊においてさえ詳細な業務計画を作ることに慣れて、演習でも計画通りに進むものと思っている人がいる。しかし、戦争は錯誤の連続と言うとおり計画通り事態が進行しないことは戦史の示す通りだ。だからその修正を如何に柔軟にするかが大切で、現場指揮官にそれなりの権限を与えておく必要があるのはそのためである。
武器輸出に経済産業大臣(現在)の許可がいるために隊員に強いられる苦労はこれらの例だけではない。PKOなどで自衛隊が海外に派遣される場合は、常に派遣部隊の携行する武器は全て武器輸出の対象となるから一つ一つ許可がいる。携行食品をはじめ何が武器かから始まって、経産省のいう通りにして許可を取る。また帰国すれば輸入の許可だ。これにどれだけの無駄な労苦を強いられているか、部外の人には想像もできないだろう。
対空ミサイルの訓練でも国内に射場がないので、米国の射場を使わせてもらう。そのためミサイルを米国に持っていくのは武器の輸出だ。私が現職の頃は、許可を取るのに一年もかかっていた。これだってナンセンスだ。武器輸出に許可がいるのは、本来、会社や個人が対象の筈だ。これが発足以来、自衛隊にも適用されているのだ。
その基本に、武器等製造法が経産大臣の所管だということがある。武器を保有するのは自衛隊の本来業務だ。警察の拳銃など武器としては微々たるものだ。しかし防衛庁は武器についての基本法、武器等製造法を所管していない。ということは、武器について防衛はユーザーの立場でしかない。所管官庁として行政上の指導はできない。例えば、防衛生産の量は少ないため類似の武器の生産を集約し合理化の指導をすることは防衛庁にはできない。防衛用航空機についても同じだ。航空機製造事業法の所管が経産省の所管だからだ。火薬類取締り法についても同じことが言える。
何故そんなことになっているのか。それは防衛庁が後発官庁で、防衛庁が発足した時、既にこれらの法律は経産省の所管となっていたからだろう。故加藤陽三氏は、防衛庁発足の時の苦労話として、既に他省庁の所管となっていた事項について防衛庁の所管とすることが困難で、取りあえずそれらは今後の問題として残して防衛庁を発足させざるを得なかったと述べている。官僚は自己の権限となっている事項を手放そうとしないのは規制緩和で問題とされる通りだが、官庁間の関係でも同じだ。そういうのが優秀な官僚ともされている。
噂話のひとつだが、かつて調達実施本部で「防衛庁発足時、当時の通産省から所管をどうするか相談され、当時中心となっていた元内務官僚は、産業に関する問題は面倒だったので、そちらでやっといてくれと返答した。それで防衛庁の所管とならなかったのだ」と聞いたこともある。
武器等製造法を見てみると古くさくて、如何に時代離れしているかが分かる。武器の具体的な例示の典型が「猟銃等」で、「猟銃、捕鯨銃、もり銃と殺銃、空気銃」となっている。この法律でどうして戦車や艦艇が所管出来るか不思議なぐらいだが、優秀な経産官僚はこの条文のどこかに引っ掛けて読んでいるのだ。そもそも武器、例えば戦車はエンジン、砲、車体、通信・索敵機器等、それぞれ別の技術で更にそれらをシステムとして統合しなければならない。経産省の一つの課、航空機武器課で武器全般について十分な理解が出来る筈もない。自衛官が多数同課に出向いているというが、それこそ官庁としてのあり方の矛盾を示している。
武器輸出が禁じられ、武器技術も輸出は禁じられている。技術の前提に学問的研究があるが、学問的研究でも海外での発表が輸出となり許されないのか。ある水中武器に関係する会社が、海外の学会で論文を発表しようとした。しかし、これが禁止されるのか許されるのかが分からなかった。権限を持つ相手がいるのに自分の解釈でことを行うと大変なことになる。航空機武器課にお伺いを立てた。しかし、何時までたっても返事が無く、結局発表を諦めたことがある。
現在、北朝鮮等に兵器に使える先端技術が輸出されることを防ぐため政府は努力しているが、防衛庁は直接関係してはいない。具体的検討をしているのは経産省の外郭団体で、そこには自衛隊OBも勤務もしているが、防衛庁自体は関係ない。それは武器等製造法の所管から来るのだろう。最近の新聞で、「兵器拡散阻止へプロ終結」の見出しの記事があった。産官学がスクラムを組むということで、昨年五月末、「日本安全保障貿易学界」が発足したという。官では、経産省、外務省の部長、課長クラスが参加しているが、防衛庁からの参加はない。ある団体を主宰しているOBの名前が見えるだけだけだ。これで本当に兵器拡散の検討ができるのか。業界の経験者などが旗を振って作ったというが、彼らは実情が分かっている筈なのにどうしたことか。基本は法律の所管から来ているのだろうが、他の省に防衛庁を排除したい、そうでないと実権が取られるとの気持ちが働いているのではないかと勘ぐりたくもなる。
これらの法律を防衛庁の所管とするにはそのタイミングが必要で、省昇格の機会を措いてないように思われる。省昇格の旗を振るのも大切だが、どうしてこのような実態面の必要を主張しないのか。OB達は、部下の苦労を知っている筈ではないか。私はかつて防衛庁の機関紙的新聞でこのことを書いたことがあるが、関さんは面白いことを書きますね、という反応が一つあっただけだった。
最後に、どうしてネーミングを国防省としないのか、防衛省では語呂としても悪いではないかとの質問もあった。私も任務の実態をよく反映する意味でも国防省の方が良いと思う。この質問を受けたとき、「私の想像だが、公明党は元来自衛隊反対だ。だから与党公明党の賛成を得るためにできるだけ現状と変わらないように装ったのだろう。特に公明党婦人部にそれを分からせるようにネーミングも考えたのではないか」と、私は答えた。
(以上)
虎ノ門戦略研究所理事長 関 肇
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