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■■■ウィニーが蝕むたるんだ国家■■■
平成18年3月31日

はじめに:
 テレビの黄門様は印籠を出してことを収める。その「心」は葵の御紋だ。民主党の黄門様は人気をはくしているようで、それは結構だが、御紋の「心」は何だろう。初めてお出ましになったとき、黄門様は「国対委員長として突然呼び出されるまでは碁ばかり打っていて、党内のことは何もわからない。若い人は知らない」、とのたもうた。同席したキャスターや政治評論家も何ら批評的なことは言わなかった。
そんな「心」では、ウィニーによる情報流出の心配もないだろう。この黄門様は当選回数が多く、かつて党の要職を占めたこともある。現職衆議院議員として、党の一員としていったい何をしていたのか。こんな長老議員がぞろぞろしていてよいのだろうか。

さて、本題に入ろう:
 ウィニーによる自衛隊の秘情報の流出について、小泉首相は自衛隊は「たるんでいる」と言ったそうだ。その通りだ。公私混同とも言えるし、情報に関する秘匿意識のたるみとも言える。
 ウィニーによる情報流出は平成15年頃から問題となり、警察、原発、空港パスワード、刑務所受刑者、地検の文書等々の流出が報道されている。今年2月海上自衛隊の秘密文書の流出が発覚し、また、陸、空の情報流出も明らかとなった。その後も県警、病院、生保、NTTなどの情報流出が続き、個人情報の流出も止まらない。ウィニー対策として個人用パソコンの公務使用中止以外に手の打ちようがないというのもお粗末な話だ。

 ここまで来たのは、日本に秘密保護法がないことに起因する。お互いが信頼しあって生きるという日本人の生活感覚では、秘密保護の感覚が薄い。しかし、秘密保護法がないことが問題を一層深刻にしている。
 ウィニー問題は最初著作権保護の点から問題とされた。秘密保護法があり、秘密保護の感覚があれば、もっと早く法律上の問題として検討されたのではなかろうか。
 前回のメルマガでは、外為法違反の問題を武器等に関する所管官庁という点から問題を論じたが、本来は秘密保護法やスパイ防止法の問題である。安全保障の見地から基本法としての秘密保護法があり、その特別法として外為法による制約があるべきだろう。違反者達が違反となるのを知らない場合が多かったというが、それは秘密保護法がないためでもあろう。
 秘密保護法がない、こんな国は世界で外にはないだろう。それは安全保障の感覚を失わせることにも繋がる。自衛隊とか国家の一機関のたるみではなく、国家のたるみだ。

 始めにウィニー問題は公私混同問題だと述べた。公務員が私物のパソコンでも仕事をしており、そのパソコンに公の情報(職務上の秘密)がコピーされていた。同時にそのパソコンには本人またはその家族がウィニーを導入していて、これがウィルスに感染したため情報が流出したという。まさに公私混ぜこぜの情報がハードディスク装置に放置され、世間に暴露されていたのだ。
 通常の公私混同とは私の為に公のものを使うことだが、この場合は逆だ。公が必要な数のパソコンを備えないため、また使い易いため私物のパソコンを使用し、私物の気安さゆえに家に持ち帰って仕事を続けていたのだ。皮肉なことにパソコンについても勤務時間についても、滅私奉公の結果である。実務作業者が報酬と関係なく仕事を続ける日本人の美徳は世界の驚くところであり、米国のように時間が来れば仕事中でも直に仕事を中断するのとは大違いだ。これが裏目に出たわけだ。ウィルス排除のソフトがあるからと、安心していたわけだが、万が一を慮る秘密保護感覚が甘かったのは事実だ。自衛隊では10万を超える個人パソコンが使われていたが、問題となったのは1000分の1以下で、数の上からは一応ほっとしたという。

 日本には秘密保護法がないことが国家のたるみであり、公務員でさえ情報秘匿に鈍感だ。海上自衛官三佐のロシア武官に対する情報漏洩事件を契機に、平成13年、最高5年以下の罰則の防衛秘密の保護規定がようやく自衛隊法に加えられた。それまでは日本には、昭和29年に制定された日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法があるだけだった。これは、米国製の兵器の秘密を守るため法律で、10年以下の罰則を定めている。だからわが国が米国から導入した兵器の秘密は特定防衛秘密として保護されるが、平成13年の自衛隊法の改正までは日本製の兵器についての秘密の保護はなかった。
 それまでは、例えば、ライセンス生産された戦闘機F-15の秘密は保護されるが、国産戦車の秘密には法による保護はない。単に会社との契約による保護だけだった。会社が契約違反をしても法による追求はできない。中国に戦車の設計図を売っても法で罰せられることはなかった。その場合会社を排除することも、大きな兵器の開発、生産は殆ど一社でなされているから、実際問題として無理なのだ。
自衛隊法の改正で上記の不具合は一応解消された。だが、自衛隊の秘密だけで、より広範囲な秘密保護法はない。これでは各省庁の秘密保護はできないし、国民意識も改善されない。

 蛇足だが、憲法上自衛隊は他の一般官庁と同一の立場にある。法理論上、自衛隊の秘密だけに国民の権利制限を課するのは、法の下の平等に反するのではなかろうか。軍隊の規定があれば別である。昭和29年から平成13年までの間、米国製の兵器の秘密だけが保護さていた。こんな状態が長く続いたのを読者はどう思われるか。日本は自らの防衛努力を自ら評価しなかったのだ。それが独立国の態度だろうか。しかも、米国の秘密だけは守る。これは日本は米国に守って貰えさえすれば良いということだ。それは安保条約の規定とも釣り合っているのだ。これは実際には多くの日本人が思っていることでもある。防衛庁に勤務していたとき、予算要求の過程で「防衛費は米国との付き合いの費用だ」という人がいたのを憶えている。その発想は植民地人のものだ。植民地が平和的に独立する過程で、宗主国が最後まで保持しようとする権限は外交と国防だ。日本の場合そうなっているのは、宗主国の圧力によるものではなく、日本自身の責任なのだ。現在でも日本で通常の秘密保護法ができないのは、日本が作らないからだ。

 現在、ミサイル防衛について米国との情報共有が必要となっているが、米国は日本に秘密保護の体制がないことを問題としており、日本はこれに対応する条約を作る動きがあるという。日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法と同様な法律を作ろうとしているのだろうか。なぜ広く日本の秘密を守る法律を作ろうとしないのか。それがあれば特に条約を作る必要はない。作らないのは日本人の精神の問題なのだ。
 そのような法律を作ろうとすれば、中国が自由な諜報活動が制限される懸念から猛反対するだろうし、国内マスコミは報道の自由を規制されるからといって反対するだろう。だが、その間にもわが国の安全保障の綻びは広がっている。

(以上)

虎ノ門戦略研究所理事長   関 肇

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