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■■■外為管理と安全保障問題■■■
平成18年3月23日

 ヤマハ発動機が軍事転用可能な農薬散布用ヘリを中国に輸出しようとして、外為法違反容疑で経産省から刑事告発された。そのヘリを防衛庁が購入したことから、防衛庁はけしからんという人がいるようなので、その問題を取り上げたい。
 このヘリは監視カメラ、夜間用の赤外線カメラなどを搭載し防塵処理をして、平成16年からサマワ派遣部隊が宿営地周辺に着弾した砲弾の捜索などに使用してきたものだ。索敵や攻撃等に高性能の無人航空機が欧米では多く使われるようになった。防衛庁も開発中であるが、米国のグローバル・ホークを導入するという話もあるようだ。しかし、サマワ派遣部隊用にグローバル・ホーク等を導入するのは予算不足で難しく、農薬散布ヘリに必要な装備を搭載して捜索用に使っているのだろう。そんなヘリが捜索用に使えるというのは、日本の技術の高さを意味すると言えるが、同時に中国等が欲しがることとなる。
 かつて共産圏への輸出はココムで禁止されてきたが、ソ連の崩壊と共にココムは廃止され、新たにワッセナー条約等で危険な国への禁輸が行なわれている。今回の刑事告発はヤマハが中国に輸出しようとしたからだが、防衛庁批判は、そんな会社から防衛庁が購入するのは入札があれば応ずるという形式的官僚主義であってけしからんということのようだ。

 防衛庁はこの問題の発生で入札を延期してきたが、イラクでは酷暑と砂塵のため機体の損傷が激しく、3月末までには切り替えて欲しいとの現地の要望があり、また外為法違反の罪が確定しておらず、入札に応じた会社はヤマハ一社だけだったということだ(これまでの納入がヤマハだけだからかもしれない。しかし、それで随意契約にならないのもおかしい)。防衛庁に対する批判は感情的にはこれで納得してもらえると思う。
 防衛庁のOBとして、そのような批判があるのは国防意識が国民の間に高まってきた証拠で嬉しいともいえる。しかし同時に、防衛庁の置かれた立場、あるいは国家が国防をどう扱っているのか、ということをもう少し理解してから言ってもらいたいし、多少は腹も立つのである。

 まず、官庁は法律によって所掌が決められて動いているのは当然のことだ。たとえ愛国心からであっても、法を考えず勝手なことをするのは許されない。何らかの違反行為が摘発されれば、国家の決定に服するという意味で各行政機関はそれに応じた排除等の行為をする。外為法違反は刑事罰として価格の5倍以下の罰金か、5年以下の懲役、或いは、行政的制裁として3年以内の貨物輸出、技術提供の禁止が決められている。しかし、罰金を支払った後なら、入札資格を与えるかどうかは微妙な問題だ。そして実際問題として防衛庁は兵器の調達で多くの選択肢を持っていない。
 今回の問題は外為法違反であって防衛庁の行政所管ではない。行政的制裁の内容も相談されれば別だが、防衛庁は関与できない。安全保障に関する総体的問題は外為法の問題であっても、経産省は関係各省に相談するのは当然のことだ。しかし、それはあくまでも相談である。安全保障に関する問題が基本的に防衛庁の所管でないのは、そして、武器に関する問題が本来的に防衛庁の所管でないのは、おかしくはないだろうか。
 武器等製造法や航空機製造事業法の所管は経産省であり、自衛隊の使う武器も防衛庁はユーザーとしての立場でしかなく、行政的に関与できない仕組みになっている。防衛産業の将来をどうするかについても、行政的には防衛庁は権限上何もできない。

 何故そうなったのか。防衛庁は後発官庁で、発足時の他官庁の所管業務は所管官庁が手放さなかったということもあろう。また、噂話だが、防衛庁発足の時働いたのは旧内務官僚であり、彼らは産業のことなどわからないし関心もなかった。通産省からどうするかと聞かれて、そんなことは面倒だからそちらでやってくれと言ったという話もある。
 武器は、例えば戦車の場合、大雑把に言っても、車体、エンジン、砲、弾薬、通信機器、電子装置等々それぞれ違った技術をシステムとして統一しているのであって、一人の専門家ですべてを理解し得るものではない。更に武器は種類が多く、また新しい武器が絶えず生まれてくる。経産省の航空機・武器課の限られた人数の非専門家でわかるわけがない。最近では民生品が武器に使われる場合が多い。禁輸の内容は条約等で決められるが、政策面だけでなく、内容についても防衛庁の所管とされていないのは問題だろう。それだけでなく、法自体時代にそぐわなくなったところもあるし、有事には不適当な条項もある。

 防衛庁の省昇格が問題となっているが、防衛庁として本来所管すべきものを所管換えするのは省昇格のような節目でなければ困難だ。防衛庁OB等で省昇格に熱心な人は多い。しかし、省昇格による名誉だけを問題として、このような問題を取り上げる人は見たことがない。
 現場の隊員の名誉は勿論大切だ。しかし、ここで挙げるような問題を考えず、省昇格だけに熱心な人が多いのは戦前の、特に陸軍で補給が軽視されたのと同じ心理状況ではないかと思う。
 官庁には積極的権限争いと、消極的権限争いという言葉がある。積極的権限争いとは所管行政の範囲を広げようとすることで、消極的権限争いとは問題が自分の所管ではないとして責任逃れをしようとすることだ。有能な官僚は積極的権限争いをし、無能な官僚は消極的権限争いをする。
 各官庁には有能な官僚が多いから、防衛庁の所管換えの要求に対してもできない理由を色々挙げ、或いは政治家を使うなどして反対するだろう。本当は、政治のリーダーシップが必要なのだが、国民が理解していないことを政治家はどれだけ理解しているだろうか。

 話がわき道にそれたが、安全保障、防衛は国家全体の問題であると共に、防衛所管官庁が持つべき権限を持たずにこれを全うすることが出来るのかと思うのだ。

(以上)

虎ノ門戦略研究所理事長   関 肇

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