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■■■テロと日本 (その2)■■■

平成17年8月27日

2.現代テロの戦略(政治的テロと宗教的テロ)

 第二次大戦後に成功した民族独立運動テロの第一の典型はイギリス統治下でのパレスチナ建国だ。後にイスラエル首相となるメナヘム・ペギンは研究の結果、戦略をたてた。統治国イギリスの軍隊に対して少数の人間と僅かな兵器ではまともに戦っても勝てない。地元の社会に紛れ、英国支配の象徴となるところをテロで攻撃し、統治者の威信を失墜させて独立を勝ち取るのだ、という戦略である。
 英国は第二次大戦による疲弊もあり、政府のみならず国民も政府はテロに対して有効な対策を取れないと敗北感を抱くようになった。統治者が心理的に敗北すること、これがテロの戦略目標の一つである。だからテロは拡大されていったし、ホテルの爆破等人命軽視も拡大した。ロシア革命におけるテロでは、無政府主義者のテロリストは目標以外の人の血は絶対に流さないとしていたことを考えあわせると、大変な様変わりだ。
 イスラエルの例はその後の各国の運動家の学習例となった。大規模テロは国際的注目をあびることにより、政治目的の達成に繋がっていく。

 テロの第二の戦略目標は、テロリストの主張が国際的に認知され、注目を浴びることである。国際的に殆ど無視されていたイスラエルの独立運動も激しいテロにより国際的注目を受けるようになった。イスラエルの場合、米国のユダヤ人社会の強力な支援を受けて国連でも問題とされるようになり、特別委員会で独立の勧告が出されることとなって独立が達成されたのである(これがその後今日まで続くパレスチナ問題の発端となった)。キプロスのギリシア人社会の独立、アルジェリアの独立も国際社会の認知が役立っている。

 テロが無差別に拡大するのはPLOによってである。航空機のハイジャックで政治目的を要求し始めてからだ。広報効果という点で注目されるのは、1972年のミュンヘン・オリンピックでのパレスチナ人テロリストによるイスラエル選手11人の人質事件だ。投獄されていた同志の釈放を要求したが失敗し、人質を殺害した後射殺された。
 これは世界中のごうごうたる非難をあびたが、PLOはこの作戦は成功としている。PLO幹部は、「同志の釈放という目的は達成できなかったが、国際世論がパレスチナの状況に注目せざるを得なくなった。パレスチナ人を無視し、除外していた国際社会にその存在をアピールできた」と言っている。この事件から一年半後にヤセル・アラファトは、国連に招かれて演説をし、PLOは国連の特別オブザーバーとしての地位を認められた。PLO幹部は、「1/4世紀にわたって外交官、政治家、ロビイスト、人道活動家が果たせなかったことを、数人のテロリストが成し遂げたのだ」、とも言っている。
 オリンピックの取材に来ていたメディアの報道はその効果をいっそう大きくした。テロに関するメディアの取り上げ方はテロリストを非難しても、その主張の広報に効果を上げるのである。政治運動に必要な
広報宣伝効果として、これほど効果的なものは無かった。これも世界各地の政治運動とテロ活動に大きな影響を与えた。今日、当時よりもメディアの国際化は広がっている。オリンピック報道でなくともCNNの報道は画像としても世界中で見ることができるのだ。

 政治的テロと宗教的テロには違いがある。政治的テロはテロの結果が支持者に与える影響を考えるからテロの対象を限定する。また、殺傷という非人間的行為に対してもテロの対象を限定する傾向があるといわれている。他方、宗教的テロでは支持者は本来その信者に限定されるから、支持を広げる必要や支持を気にする必要はない。異教徒に対しては無差別、無慈悲でも問題とならない。一神教の社会では異教徒の殺害は賞賛される場合さえある。テロリストはテロ実行の前に宗教指導者の祝福を受け、安心立命するといわれる。
 イスラエルの場合もユダヤ教対イギリス人異教徒ということが根底にあっただろうし、PLOはイスラムが背景にある。最近のイスラム過激派のテロは宗教が目的であるため全く無差別だ。イスラム教徒がイスラム教徒を相手にテロを行なっている。シーア派とスンニ派のように、かつて血を流して戦った宗派の差があれば許されるのか、それともジハードでは同じ教徒でもテロが許されるのか。

 テロには目的と戦略がある。破壊技術の発達、メディアの発達と国際化、交通の国際化、問題の国際化などグローバリズムによってテロの舞台は拡大している。テロリストの心理的禁忌がなければ、どの
ようなテロが行なわれても不思議はない。テロに降伏するのか戦うのか、相手の目的と戦略を知って覚悟を決めておく必要がある。

(次号につづく)

虎ノ門戦略研究所理事長   関 肇

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